『僕らの天下一武道会』

『僕らの天下一武道会』


子供の頃ドラゴンボールに憧れていた。

それこそ、本気で「将来の夢:格闘家」と書いたこともあったし、

僕の世代でドラゴンボールに憧れている人は少なくもなく、

『来い!金団雲ー!』

なんて言っている奴もたくさんいた。一度として金色の雲は来なかったが。

それだけドラゴンボールという漫画に僕らは魅了され、僕ら馬鹿なガキに影響を与えるには十分な内容だった。



僕が小学生の頃がそれらが全盛期だったと言っても過言ではなくて、どいつもこいつも男は、

口を開けば「かめかめ波」だとか「スーパーサイヤ人」だとか、

お前らの頭の中がスーパーサイヤ人だぜと言われても何らおかしくないような言葉を連呼し続けていたが、

この馬鹿共は毎日それに飽きずに、ドラゴンボールについて熱く語っていた。

しかし子供とは非常に怖いもので、通常ドラゴンボールが好き!というレベルであるならば、

『俺はあのシーンが好き』

『俺はあのシーンに感動した』

などと、そういったことを語らい、そして分かち合うことで喜びを覚えるものなのであるが、

僕らの発想は違っていた。

『俺はあのキャラになりたい』

まさしく文字通り、頭の中にはマルコメミソしか詰まっていないようなクソガキ共だった。



しかし、あのキャラになりたいこのキャラになりたいと言ってなれるもんでもない。

そんなもんでなれるんだったら、とっくにこの世は孫悟空だらけだ。

だから僕らみたいな頭の弱いクソガキは、なりたいキャラを演じ、そして対戦をするという結論に至ったのだ。

マジ、親が見たら泣くような光景を僕らは平然として繰り広げていた。



しかし、ただ対戦するものつまらない。何かいい方法はないものか。

明らかに間違ったベクトルで僕らは自ずと結論を導き出し、

そして今馬鹿ガキで構成される天下一武道会が開かれたのだった。

当時の僕も周りの馬鹿ガキに負けず劣らずの馬鹿で、

『俺!孫悟空!俺!孫悟空!』

まるでどこかの宗教団体のように、その言葉だけを連呼し続けていました。

しかし、孫悟空っていうのはやっぱり人気が高いもので、10人くらい天下一武道会の参加者がいたと思うんだけど、

8割くらいが孫悟空志望ということで、結局ジャンケンという形をとり、僕はあっさり敗北しました。

僕はジャンケンで負け、更に負け、豪快に負けました。

もはや負け続けた後に待っていたのは、ピッコロ大魔王という、

わけのわからない皮膚が緑色の、もはや地球上の生き物でもない役でした。



そんな気落ちしている僕を余所に、残りの馬鹿ガキ達は大いに盛り上がっています。

『まずは対戦表を作ろうか』

『よーし!俺、一回戦がいい!』

『いやいや、ここは公平にジャンケンで対戦表を決めようぜ』

何が公平か。そもそも、僕がピッコロというキャラの時点で公平なことなど一つもない。

しかし馬鹿ガキのわけのわからない討論は続く。

『じゃあ、俺悟空だから最終戦でいいよ。トリな』

『ふざけんな!俺が最終戦って決まってんだよ!』

『あぁ!?なんだお前!今ここでオラと決着つけようってのか!?』

悟空のキャラを勝ち取った市島君はもはや口調までもが悟空でした。

どっちかっていうと西遊記の悟空そっくりだったんだけど。



兎にも角にも、対戦表を作らなくては天下一武道会どころではないのに、

なんだかこいつら素の喧嘩になってて、もはやバトルロワイヤルのような状況になってました。

ようやく騒ぎも一段落ついたところで、僕らは対戦表を作成しはじめた。

僕はもうピッコロの時点で何もやる気が起きなくて、ずっと別のことを考えていたのですが、

なんかその間に最終戦とかになってた。

一回戦のトリを飾るのは何と悟空の市島君とピッコロ大魔王の僕でした。

やらせの臭いがブリブリするぜ。



とりあえず、一回戦の対戦が、べジータとトランクスの対戦でした。

親子対決かぁなんて文字だけ見れば思うんですけど、

実際は鼻垂らした今にもうんこ漏らしそうなガキがやってます。

『うおおおおおお!』

『うおおおおおお!』

あの開始早々ですね、なんか凄くがんばってスーパーサイヤ人になろうとしてます。

両者共、すっごいそれを嬉々としてやってますから、これまたどーしょうもないんですがね。

『ハァハァ・・・・』

『ハァハァ・・・・』

しかも、それだけですげぇ疲れてます、こいつら。なんなんだ、一体。

『いくぞー!トランクスー!』

『はいっ父さん!』

周りの観客は、

『行け行けー!』

『やっちまえー!』

とかプロレス状態。こいつら相当エキサイトしてやがります。

とは言っても、子供のすることですから、当然あんな漫画のようには戦えるわけでもありませんよ。

その辺は僕だって、安心して見てましたから。



『うおおおおおおお!』(ドン!ガシャン!)



と思ったら、いきなりベジータの先制パンチ。

しかも、吹っ飛んだトランクス、その衝撃で普通にガラスとか割ってるんですけど。

おいおい、ちょっと待ってくれよ。何かが10個くらい間違ってるぜ、この天下一武道会。

いや天下一武道会としちゃ間違ってないけど、子供の遊びにしたら何かが間違ってるぜ。

『くそっ!父さんやるな・・・!』

いや、父さんやるなじゃないよ。アンタ。ガラスとか割って、普通に血出てるやん。

『ククク・・・トランクス。まだまだだな』

まだまだなのはお前の頭だよ。



しかし、その後もこんな調子、2回戦以降ももどう考えてもトチ狂った奴等が試合をしてました。

ある意味で、どう考えても救急車が必要な奴とかいましたし、

もうどんどんエキサイトしていくもんだから、観客もノリノリです。

そんな中因縁とも呼べる、僕(ピッコロ大魔王)と市島君(孫悟空)の対戦が始まったのでした。

僕は市島君は既に孫悟空のキャラをとった時からノリノリで

『オラがやっつけてやる!』

なんて意気揚々と準備運動してます。

西遊記のクソ猿そっくりなくせしてな。



僕は、当時体もクラスで一番大きくて、

間違いなく普通の喧嘩だったら市島とかいうサルには負けるはずもありません。

対して、市島君なんてクラスで一番のチビ、

その上サルそっくりなわけですから、尚のこと僕が負ける要素が何処にも見当たらないんです。

いや普通の喧嘩ならといいましたけれども、これだって普通の喧嘩となんら変わらないって話です。

普通に僕の勝ちは見えていました。

その時でした、市島君が狂ったように激しく攻撃してきたのです。

『かめはめ波アアアアアアア!』

いや、そんなもんは出るはずなくて。

手がかめはめ波の形していて、その勢いっていうんですかね、僕を押してきたわけですよ。

ただそれだけの攻撃。マジ狂ってるとしか思えない。

しかしまた、これが割と痛くて、僕もカッとなってですね。

ピッコロ大魔王最強の必殺技である、魔貫光殺砲をくらわす決意をしました。

『魔貫光殺砲オオオオオオオオオオオオオオオオ!』

とかやりました。えぇ、僕もやはり狂ってます。

しかしまぁ、魔貫光殺砲なんてものは当然出るわけでもなくて、

攻撃的には、ただの2本指での突きみたいな感じ。

とにかく技なんて出なくていいから、市島サルのミゾオチに届けばいい!

そう思ってミゾオチに入った瞬間のことでした。



グニャ



指が曲がってはいけない方向に曲がってしまいました。

周りも、さすがにこれにはドン引き。

でも僕はそんな余裕なんてなくて、ただひたすら

『ウバアアアアアア』

って泣いてた記憶しかないくらいに痛かったと思う。

その内、先生とかが騒ぎを駆けつけてやってきて

『何やってるの!?』

っていう先生の目の前に映ったのは、割れたガラスとか血を流してる小学生とか、

指があさっての方向に向いて泣いている小学生とか。

もうさぞ天変地異でも起こったかのような心境だったんだろうな。



ピッコロ大魔王みたいな顔をしておりました。



魔貫光殺砲で殺されるかと思った。



僕らの憧れのドラゴンボール。

少年に夢を与えるドラゴンボール。

しかし僕の中でドラゴンボールっていうと、まさに悪夢みたいな思い出しかありません。

そんでもって、

『魔貫光殺砲で指が折れた』

とわが子に告げられた母も、やっぱりピッコロ大魔王みたいな顔をしてました。

こちらは、普通に魔貫光殺砲で殺されました。



最後に。

今回テキストサイト一武道会に出場するにあたって、

こんな恥ずかしいテキストしか出せない僕は、

やっぱりあの天下一武道会を開いた頃と何ら成長を遂げていないことを深く実感したのです。

「テキイチ」投票場〕へ。     〔表紙〕に戻る。


  フレームが表示されてない方はコチラ